fake_BOOTLEG

everywhere I'll go

落下

 「金で買えないものってのもあるんだ。アイとか?ユージョーとか?」
 「買えないならいらないよ」

今回の銭ゲバ風太郎は無口だった。
沈黙の風太郎に、いろいろな人間が語りかけた。
「今のままで十分じゃないか」と。
「何が不満なのか」と。
それは風太郎自身が一番訊きたいとでも言うように、彼は寡黙だった。

彼の前に、分身のような男が現れる。
金のせいで父親は自殺し、その後母親も自殺し、自分は癌でもうすぐ死ぬと言う。
男は、風太郎をもう一人の自分をみつけたと喜んだ。

彼の義父は、彼が想像していたようなお金持ちではなかった。
若い頃、人を傷つけ、今もそれを抱えて生きていた。
義父は、風太郎を笑顔で受け入れた。

風太郎は、初めての友人と、初めての見方を、同時に殺した。

「俺は間違っていない」

これまで味わった苦痛を呼び覚まし、今していることの意味を探し、これからどこへ行き、何を手にし、どうやって投げつけるかを、そしてそれからどうなるのかを、どうなりたいのかを、不安を疑念を怒り悲しみ憎しみを、吐き出し喘ぎもがき叫び、真の銭ゲバへと変貌する瞬間。
その壮絶なシーンの松山ケンイチは圧巻だった。

堕ちかけてしまった人間は、いっそ、底まで堕ちてしまえば楽なのかもしれない。
堕ち切ってしまうタイミングを本当はみんな待っているのかもしれない。
そしてそれが始まってしまったら、何モノも、それを食い止めることはできない。
本人でさえも。

父親に、いくら渡したら死んでくれるのかと訊いた風太郎の左目には、光るものがこぼれずに、滲んでいるように見えた。