fake_BOOTLEG

everywhere I'll go

バカな人間がひとり死ぬってだけの話、だとしても

 「でも僕は、人を愛さないんですよ」

人が死ぬたび風太郎はうなされる。
悪夢から目覚め、半狂乱で泣き叫ぶ。
金庫にとびつき、札束を抱くと、彼の心は落ち着きを取り戻した。

 「世界がね、歪んで見えるんですよ」

死んだ左目で見る風太郎の視界が初めて映像になっていた。
真っ二つに分かれ、ぐにゃりとした世界。
彼はずっとこの景色をみていた。
母親が死ぬときも、人を殺すときも、ずっとこの景色の中にいた。

愛人を家に連れ込む父親に追い出され、
雪の中、辿り着いた母との隠れ家を、彼は再び訪れた。
つらいことがあったらここに来ようと約束した場所へ。
彼は、初めて人を殺した夜もここへ来た。
盗んだ財布を抱きしめ、幼い彼はその小屋の柱に誓いを残した。

 “金持ちになって 幸せになってやるズラ”

緑と風太郎、二人の場面がほとんどだった。
天涯孤独となった二人は、番いの鳥のようだった。
羽もぼろぼろで傷だらけ、金に疲れ果てた二羽の鳥。

 「僕はいずれにしろ同じような道を辿ってたと思いますよ。
 どんなに貧しくても、お金を恨まない綺麗な心の人たちもいるでしょうね。
 だけど僕は違った。それだけのことです。」

定食屋の家族が借金に追われ、風太郎に金を無心する。
包丁を風太郎につきつけ、金をよこせと脅す。

 「どこいっちゃったんですか?
 あれだけ大事だっていってた心は?
 がっかかりだなぁ。がっかりだ。
 まぁあれですよね、くだらないってことですよね、人間なんて、ねぇ?」

心が大事だと信じた母と幼い自分の分身でもある家族が
金で見る見る崩れていった。

 「さようなら
 あんたらみたいなのがいるから、この世界は腐るんだよ」

そう、吐き捨てたと同時に、風太郎は覚醒する。
貧乏な母親も自分も、この世界に不要な人間だったのだと。
幸せなんかになれるわけはなかったのだと。
本心はわからないが、私にはそう見えた。

この場面から、一変、風太郎の目は、空虚に包まれる。

命と引き換えに10億をもらった父親が、もて余したと金を返しにくる。
ここで、これまで何故、風太郎は父親を殺さなかったのかも明かされる。
それは母親と約束したからだった。
父親があんなになってしまったのは会社のせいだから恨まないで欲しいと。

 「どうぞ、生きてください。
 たった独りで、お好きなように、生きてください」

 「お前はどうすんだよ」

 「さようなら、おとうさん。いつまでもお元気で」

もう、風太郎はうなされることもなかった。
天気の良い朝、穏やかに目覚めた風太郎は、母親との隠れ家に向かう。
自分を殺すために。

何故死ぬのかと緑に訊かれると、何も映らない空っぽの表情で彼は答えた。

 「僕が間違ってなかったって、わかったからですよ」

間違っていなかった。
お金なんてなくても幸せになれると思っていた自分も。
そう思うことはとても愚かであったと気づいた自分も。
金持ちになっても幸せになんかなれなかった今も。
貧乏でも幸せを感じられたあの頃も。

次で銭ゲバ最終回。
何にすがって一週間を乗り越えたらいいのか。