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everywhere I'll go

心地よい吐き気を誘う2作品

 「生まれたときから幸せな奴って、むかつくよね」

昨日、再びの「ダークナイト」。
圧巻のエンターテイメントであるにも関わらず、観賞後のこの煮え切らない、気持ちの悪さというか、不条理感は、やはり、何度観ても、消えない。

2度目で気づいたのは、ジョーカーの傷の話だ。
私は、片方を父親に、片方を愛する妻に、と勝手に思っていたのだが、彼は一言も「片方」とは言ってなかった。
どちらが嘘なのか本当なのか、そもそもそんな話あるのかないのか、結局わからない。
彼にもわからない。
彼には名前がない。彼には実体が無い。
彼のしていることに一貫性なんてあるわけないのだ。
明確になっているのは、悪意の塊だということだけだ。

一方で、彼の言動に痛快ささえ感じる箇所がある。
金の山を燃やすシーンや、ジョーカーの存在に怯え慄く悪党や権力者たち。
彼の結論は間違っていないが、正しくはない。
彼自身が矛盾だらけなら、彼を見ているこちらも矛盾だらけの渦に巻き込まれ、全く、不思議な魅力の持ち主だ。
できることなら、再々、観たい。

その後に、松山ケンイチの「銭ゲバ」を見た。
松ケンの、と付けるべきだ。
この役者なしで、このドラマは成り立たない。
他にいたかと想像すると、たとえば、瑛太じゃ、チャラ過ぎる。
だからって加瀬亮じゃ、陰湿過ぎる。
松山ケンイチの、あの、ゼロ、無色、ニュートラル、そういった存在感で、針が振り切れ、壊れた人間を演じているから、見当違いな同情心も、余計な嫌悪感もなく、見ていられる。
ミムラは嫌いだが、何不自由なく、正義感と清潔感で溢れた生活だけしか知らないお嬢さん役はぴったりだ。ちゃんと、いつかこいつの泣きっ面が見て見たいと思える。

あの痣の少女を利用する、というくだりもいい。
よくある話なら、同じ顔の醜いもの同士、本当の愛を見つけて生きてゆこうなんてところに納まりそうなところに、笑顔で彼は「オレは醜いものが大嫌いだ」と言い放つ。
あの場面は、本質を衝いていて、非常に気分が悪くなった。好いドラマだ。

ひとつ難をあげれば、椎名桔平
貧乏人でアル中でどうしようもない最低な父親、にはひとかけらも見えない。
髪はきちっとこざっぱり、おしゃれ無精ひげに、極めつけは中田ヒデばりのグラサン。
初歩的な役作りさえ儘なってないなんて、よい役者だと思っていたが、ここにきて、若手の松ケンに惨敗。他の役者陣たちが好演なだけに、非常に残念というか、邪魔でさえある。

ともかく、あまりに救いのない話で、果たして、私以外に需要があるのか心配だ。
視聴率、どうなんだろうか。

それにしても「ダークナイト」しかり「銭ゲバ」しかり、漫画家って誠実なネクラが多い。