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everywhere I'll go

「善き人のためのソナタ」を観た

ツタヤが半額だと、ジャックバウアーがうるさいので、ジャックの、しかもあの吹き替えで言われると、誰もが自白して、誰もが命令に従ってしまうように、私も宛てもないのにツタヤで借りるハメになった。

なんとなく、タイトルだけで借りたのだが、思いもよらずところどころ泣いてしまった。

崩壊直前の東ドイツのお話。
って、あーなんだか難しそうだが、大丈夫。あたしが大丈夫だったから。

歴史的なことを知らずとも、この映画の描くものは、大きな歴史や政治や圧力の中で、まだ僅かに残る自分の中にある優しさや美しいものを必死に守ろうとする、小さな人々の話で、それは、きっと誰もがそうでありたい、あるようにと願う人間の姿だ。

東ドイツ国家の秘密警察、シュタージの大尉ヴィースラーが、ある劇作家と女優の家を監視盗聴するよう命じられる。2人の穏やかで愛の溢れた生活や、支配下で懸命に芸術を豊かにしようと苦悩するを、“音”で1日中聴いていた。やがて、ヘッドフォンから、「この曲を本気で聴いた者は悪人にはなれない」といわれるソナタが流れてくる。

このヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエが好い。淡々と人をスパイし、冷酷を通り越し、表情感情が“無”。そうやってずっと暮らしてきた彼が、1日中その二人の“ソナタ”を聴いるうちに、自分の孤独や寂しさに気づかされてしまう。その姿が実に物悲しい。同時に、彼の中にまだ残っていた“善き”心が目を覚まし、けれど立場上、それを押し殺さなければならないという悲しみも伴い、そういった繊細な心の動きを見事に演じていた。

アメリカの映画だったらもっとこうして、感動的に仕上げただろうと思うところが多々あって、そういう余計で、大げさな演出を取り去ったからこそ、観ている側も、静かに、登場人物の感情を辿り易かった。

地味な映画だが、賞もとってたりすると、闇雲に評価されているのではないのかなと思う。