fake_BOOTLEG

everywhere I'll go

思いで探しの旅の末路

ヤクザとメル友になって、私も引退したい、人生を。

やめたい、この人生を。

死んだら生まれ変わるとかなんて、前世とか来世とかなんて、
そんなことあるわけないってことは、わかってる。

それでも、人は一縷の望みをかけて言う。私も言う。
どうか来世は幸せになってくれ、ちゃんと生きてくれ、自分と。
だから、早く、現世を終わらせたい。一刻も早く。

Facebookなんてぇのを、先日、妹に半ば脅迫されて、登録した。
登録するだけして、ほったらかしてたら、「もっと活用してくれよー」ってマークザッカーバーグからメールがきて、しゃあねぇ、映画はおもろなかったけど、と、久しぶりにアクセスした。

検索欄になんとなく、いろんな名前をいれてみた。
もう、15年くらい前につきあってた男をみつけてしまった。
なにひとつ、変わってない、悪い意味で。
つか、ふぇいすぶっくって、いかにもいかにも。

当時乗ってたロードスターの写真。そうですか、真っ赤なスーパーカーも追加したんですか、ずいぶんハブリがよろしーな。
村上春樹時計じかけのオレンジ未来世紀ブラジル・・・・そうでしたそうでした。
思えばこの男は、今の男と少し似ている、ダメなところが。
忙しい忙しい疲れた疲れたといって、週末会ってもただただ寝てばかりだった。
違うところは、映画の趣味がいいということと、子持ちじゃなかったということだ。

同じ頃、同じ会社で、親友も男と付き合っていた。
彼女はとにかく、もてた。
中学生の同級生だったから、かわいいとかあまり気づかなかったが、どうやら、社会に出るとデラかわいいらしい。
証拠に、あたしが片思いしていた男たちにそのこを紹介すると、バッタバッタと片っ端から彼女にひとめぼれしてしまったこと、しばしば。
後にいろんな人に「あのこを紹介するかね、しかし」と駄目を出されること、しばしば。

ともかく、その子はかわいいし、性格が好い。
で、20代半ばで初めて男とつきあった。
会社で1番の男前の、これまた好い人だった。

その2人と、あたしのそのロードスター彼と(ちなみにまんまちゃん似)の4人で、何度か飲みにも行った。
まんまくんは、嫌そうだった。わたしも嫌だったような気がする。なんだか、嫌だった。

彼女は専門学校を卒業し、飛び込みでその超大企業に履歴書を手持ちして採用された。
四年生大学を卒業して、路頭に迷っていた私を、彼女が契約社員としてその会社にねじ込んでくれた。
その会社での、4人だった。

彼女がその男前とつきあったら、女性陣に「羨ましいなぁ」と言われ、
私がまんまくんとつきあったら、男性陣に「ありがとうよくつきあってくれた」と言われた。

いろんな意味で、なんだか、めんどくさくなって、会社を辞め、彼女との連絡を断った。
いちど、どうして連絡くれないのと、泣きの手紙をもらったが無視した。

そして15年。
彼女の名前でFacebook検索したら該当なかったので、試しに、その男前くんの苗字にして、検索した。
みつけた。

なにひとつ、変わってない、いい意味で。
なんだこの写真、本当に現在のやつかよ。
40どころか、30にも見えない。
1キロも太ってないだろうし、1ミリもたるんでない。
ユニコーンミスチル・・・バンプも聴いてんの?いかにもいかにも。

マークザッカーバーグならここで、メッセージを送れと言うのでしょう。
それから、またもう一度出会いが始まるのでしょう。

でも、できなかった。
だって、何もないから。

「まだ結婚もしてないのよー、でもね、マンション買ったんだ」とか。
「しがない主婦よー、やっと子供が手が離れてさぁ」とか。
「貧乏だけどねー、細々と好きなことやってるの」とか。

「何もない」ということの、言い訳になるような、あるいは、代替となるような、「何か」がないから。
だから、ただ、ただ、昔確かに、私と浅からぬ付き合いをしていたふたりの画像をじっと眺めるだけしかできなかった。

15年。
彼女は相変わらずあの会社に勤めて、あの頃の人たちとも交流を持ち、あの頃好きだった人と結婚した。
まんまくんは、あの会社の関連会社にいて、相変わらずの映画を好きで、車も1台増やして、自慢げに笑っていた。

たかだか写真1枚で何がわかるのかと。
それでも、私からしてみれば、こんなところに実名と顔晒して、にこにこ笑ってるような人間は、まとも中のまともな、堅気中の堅気な人だ。

2人はちゃんと生活していた。ずっと。
私が、もう、なんどもなんども覚えてないほど転職して登録できる派遣会社を食いつぶし、カード会社のブラックリストに乗り、しょーもない男とつきあって、いろんな好い人をぶっちぎって、ずるして、寝て、食って、太って、白髪増やしてる間、ずっと、ずっと2人は。

隣の芝生は青く見えるんだよ、って、慰めたつもりで、未来のない、今の男が言った。

隣の芝生が青く見えるんじゃなくて、自分の芝生が枯れ果ててることに気づいたのだと言い返したら、笑って絶句していた。

もう、枯れ果ててカラカラのこの芝生の上に、何年前からか座り込んでいて、たまに勘違いしたり、調子に乗ったりして、種を撒いたり水遣りしていたのかと、愕然とした。
もう、後戻りも、やり直しも効かないところまで来てしまったのだと、立ちすくんでしまった。

同時に、このように改めて絶望するということは、どこかで、まだ、やれると思っていたのかよと、さらに絶望。

誰かの歌じゃないけどさ、この冴えない現実を夢みたいに塗り変えればいいじゃん、とまたうまいこと言ったとばかりに、未来のない、頭の悪い、今の男が言った。

塗り変えるなんてできないだって、あたしは黒色しか持ってないの、そういうことなの。
また男を黙らしてしまった。

いろんな人に出会ってきて、楽しく過ごしてきた。
そうしてだんだん、なんだかめんどうになって、予告なく突然、捨ててきた。
その人たちがきっと、持っていたのかも、黒以外の色を。
渡そうとしてくれたのかも、私なんかに。

まぁ、きつい言い方だけど、自業自得だね。俺もそうだけどさ。

未来のない、頭の悪い、おまけに性格の悪い、今の男が言った。

一緒にしないでよ、あなたにはあるでしょ、成長楽しみな子供たちが、と言ってやった。
ふん、嫌味だってのがわかるか、わかんねーか、頭悪いから。

なるべくしてなった。
私がやってる人生だから、きっとこうなるだろうとわかっていたけれど。

だから、引退したい、人生を。
もう、大丈夫だ。
仕事もすべて、嫌になったらすぐ辞めよう。
どっちにしたって、我慢したって、何をしたって、
黒い色は濃くなるばかりで、ここには雑草さえ生えない。