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everywhere I'll go

思い出しただけ

雪が降ったので札幌を思い出した。

もう6年も前の、たった2年間のこと。

とうとうこの世の果てにきてしまったと東京で思い余って、
ならば北の果てに行って生活してみようという結論に達した。
私は本気であそこに骨を埋めるつもりでいた。

どうして北海道だったのかはもう書き記すのも馬鹿馬鹿しい。
結果、実に、馬鹿馬鹿しい毎日だった。

何もなかった。何も得なかったし、だから、何も失わなかった。
ああ、金は一層なくなった。
東京でじっとしていれば出るはずもなかった金が出ていった。

ただ寒くて、ただ雪が憎憎しいだけだった。
気の強いだけのひまを持て余す札幌の女どもと、
ヘみたいな気弱さを優しさと言い張る札幌の男どもが居ただけだった。

札幌が大嫌いになっただけだった。

この世の果ては場所を移動してもついてきた。
私である以上、私がどこへ行こうと逃げ果せないと知った。
そのことが大きな収穫だった。そうだった。

よかったことを思い出そう。
せっかく東京に雪が降って、札幌を思い出したのだから。

東急ストアのカツ丼はおいしかった。
家に持ち帰る前にちょっと冷め気味になってもおいしかった。
それから近所のどんぐりとモリモトというパン屋も本当においしかった。
チーズタルトとサーモンサンドとめんたいフランスとあと、とにかく全部おいしかった。
ツタヤも安かった。半額くらいの印象で安かった。

札幌で道に迷っても、大通公園テレビ塔を見つければ、もう一度やり直せた。

会社に行く電車賃がなくて、通勤2時間、雪道を徒歩でこなした何日間は辛かった。
やっと給料が振り込まれたその朝、空腹で辿りついた会社近所の公園のベンチで、
コンビにで買ったパンとカツゲンを流し込んだ時は、生きてるってこれだと実感した。
空を見上げて、呆れて笑った。

楽しそうだずいぶん。そうやってなんとなく最初のうちは楽しくやっていた。
何故なら、なんというか、テレビ塔が、言うなれば“あたしのテレビ塔”があったからだ。

馬鹿馬鹿しい。私は本当に馬鹿だ。

21年前にも札幌に行っていた。2泊3日。

あの頃の思い出はそれはそれは幸福な景色ばかりで、札幌は美しい場所だった。
なのに、後の私が嫌な思い出で塗りつぶしてしまった。

違う。
こんなことを言いたかったわけじゃなかった。

もう溶け始めてしまったが、さっきまで確かに、ベランダの手すりも、地デジのアンテナも、階下の屋根も、駐車場の車も、全てが真っ白になって、それを見ていたら、ぼんやり、札幌を思い出した。

思い出したその瞬間、とても本当は安らかな気持ちになったのだ。

一瞬、静かに、冷たく、とても清らかな何かが過ぎって、
あの頃好きになった歌のどこかを思い出したのだ。

とだけ、書き記したかっただけ。