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硝子の芸人

昔むかし、ビートたけしが事故に遭って、顔がめちゃくちゃになって、退院して、朝、記者会見の様子を見た時、私は化粧がままならなくなるほど、ボロボロ泣けてしまった。
その顔の凄さに同情してしまったからだ。
その後、どこかで松本人志が「あれは記者会見をやるべきではなかったのではないか、芸人はどんなことをしても“かわいそうだ”と思われてはいけないものだ」というようなことを言っていた。
今となっては、とんがってたなぁ松っちゃんは、と思うばかりだが、昨夜、眠い目を凝らしながら見たテレビで、その言葉を思い出した。

堂本兄弟」の若林は“かわいそう”だった。

前にめちゃイケで「一番歌がヘタな芸人」を決めるというような企画をやっていて、そこでも若林は唄っていた。やらせでもあそこまで音程は外せないよってほどの歌唱力で、度肝を抜かれるほど大笑いをした。
それは、めちゃイケは「お笑い番組」であって、その企画の括りが「歌がヘタな芸人を笑ってやろう」だったからだ。

昨日の「堂本兄弟」が笑えなかったのは、何よりも、あれは「お笑い番組」ではないからだ。「音楽バラエティー」とか言い張ってるけど、まず、キンキキッズなんてただの関西弁なだけでちっとも面白くないし、単に、ミュージシャンばかり出演させるとお金も続かないし、たまに芸人やタレントも出しちゃうから「バラエティー」と後付けしたに過ぎない。

それに、唄わせたシチュエーションが、むごすぎた。
ステージ、ライト、客もいて、「音楽番組」のテイをとっている、そこで、唄わせる。
なにより、堂本二人はさておき、演奏者たちは皆、名だたるプロミュージシャン。
彼らはクスリともせず、黙々と楽器を奏でる。そこに、あの歌声。
顔面蒼白で懸命の若林。笑顔の固まった春日。

演奏が終わって、番組が終わる。
誰ひとり、いじることもなく、ただ終わる。
唄い終った若林のこわばった表情に、前半のトーク時の言葉が蘇る。
「音楽の授業、ピアノの前で唄わされるのが本当に嫌で、そのまま教室を飛び出した」。

トークがオチのフリになることもなく、哀しげなモノローグになってしまった。
これは単なる公開弱い者イジメではないのか。
そしてとうとう私の中に、芸人にとって致命的な思いが過ぎる。
「かわいそうだよ」。

そもそも何がいけなかったか。
この番組に出たのが間違ってた。出させたと言ったほうがいいか。
どうしても堂本を絡めたいんなら「正直しんどい」かなんかで、ちょい唄わせてゲラゲラやるくらいでよかったんじゃないか?
それでも前半のトークはひどく面白かった。若林フィーチャータイムだった。
だったら歌の部分はなしんこでよかったのではないかと尚のこと思う。
トークだけで十分、芸人としての勤めは果たしたではなかろうか。

例えば、黒木瞳みたいな「私ってきれいなだけじゃなくて歌がうまいのよ」って人とか、俺はジャイアンみたいに「誰に迷惑かけようと唄うのが大好きなんだぜ」って人が、あーゆー番組にでて、しゃあしゃあと唄うならまったく問題はない。視聴者は「ブっ」って指差して笑うだけだから。
でも、若林は、唄うことをちっとも楽しんでいなかったし、むしろ、大嫌いなのだ。
それを、ネタにして笑ってくれるならまだしも、あんなシチュエーションで唄わせられ、なんのいじりもフォローもなく、終了。
あれじゃ拷問だ。

“寒い笑い”とか“すべり芸”とか、そういう風に見せたかったのか?
だとしたら、大失敗だ。
そういう演出も中途半端な作りの番組のくせに、えらい博打をして、それに借り出された若林は、ただただとばっちりをくっただけだ。

とにかく、私にはそういう風にしか見えなかった。
芸人がそういう風にしか見えなくなったら、殺されたも同じだ。

録画しとけばよかったと思うほどの立川談志のものまねは、似てなささとくだらなさとわかりづらさで笑いの渦。その中でオロオロする気弱な若林の針が振り切れて、本当に面白かった。
「トラウマになった」と若林は連呼していたが、こっちはもうそれどころじゃない。
彼の持ちネタのようになった「心が折れました」の決まり文句を聴くたびに、昨晩の「硝子の少年」を唄う姿を思い出して、今後ちょっと笑いづらくなるんじゃないだろうか。
それこそトラウマになりそうなんだけど。