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everywhere I'll go

土曜の夜はゲバゲバウォッチング

 「格差社会ですか?
 格差なんてずっとずっと昔からありますよ
 なかったことなんてないですよ
 なくなりませんよ絶対に
 貧乏人は必要なんですよ
 貧乏な人がいなきゃお金持ちが困るでしょ
 貧乏人は必要なんですよ
 お金持ちのためにね」

視聴率がひどいようだ。
そんなの関係ない、好いものは好い、とも言ってられませんのだ、「銭ゲバ」ゲバとしては。
視聴率が下がると作り手のやる気も予算も出し渋られて、最終回が当初とは違う方向へ行ったりしないだろうか。1回分、削られたりするんじゃないだろうか。
こんな好いドラマなかなか出てこないのに。「あしたの喜多善男」以来なのに。
そりゃあ、土曜の夜によりにもよってな内容だ。
金の為に殺戮を繰り返す男の話なんて誰が好き好んで見るだろう。
でもだから、風太郎の台詞に是非耳を傾けて欲しい。
耳を塞ぎたくなるほどの生々しい台詞に。

どうして今の「相棒」なんかが20%超えをするのか全く理解不能
おもしろいんだろうけど、「前の相棒」を超えるってところが納得できぬ。
銭ゲバ」のほうがよっぽど人生の糧になる。
渇いた作り笑いも、空虚な安い涙も、政治理念も、掲げる思想も、何もなくとも、このドラマを見れば勝手に心は痛んでゆく。痛む心に気づける。

救いようの無い、救いたくもない、風太郎の「この先」で、ひとつ気になるのは、あの能天気な定食屋の人々との今後だ。どうなるんだろう。
当初は、この部分必要なのだろうかと疑問だったが、息つく間もないほどの怒涛のゼツボーシーンで、いつしか、ここにいる時だけはせめて風太郎の心が穏やかでありますようにと、祈る瞬間にさえなっている。

98%、文句のつけようのないドラマなので、他の2%のことを言う。

まず、ともかく父親の風体は違和感の塊だ。
何度も言うが、あれは、どうみても、少し前のイタリー好きのチョイ悪オヤジだ。
肩タッセルの付いたモスグリーンのコート、カシミヤを思わせる毛玉ひとつないチャコールグレーのタートルセーター、微妙な織りの入ったマフラー、ピカピカのこげ茶の靴。大量生産のかけらも無いファッション。
酒浸りで息子に小銭の無心をする男じゃないのか?どういうことだ。ここまでされると、何かのフリなのかと無駄に勘ぐってしまう。彼以外が全て完璧な役作りなだけに、穴が目立つ。
風太郎が最初に憎しみを抱く人物なのだ。
それだけに、まじでほんと、ちゃんとやってよって、お願いしますよって。

もう一点。
父親を見て、若い刑事が「風太郎がかわいそうになってきた」とつぶやくシーン。
そういう大半の意見も物語に織り込むのは必要だが、その後、宮川大輔演じる刑事が、そんな同情心を一掃するような言葉を何か発して欲しかった。
もしかしたら、宮川自身はそういう表情をしていたのかもしれないが、カメラが遠くに引いてしまい、わからなかった。
それでなくても、彼が殺人を犯した1度目2度目には撲殺シーンがあったのに、今回はそのシーンはなかったのだから、そうなると、だんだん、本当に、風太郎への哀れみを中心に物語が進んでしまうようで怖かったし、何より、そんな安直な流れはがっかりである。
格差社会反対!」と叫んでいた派遣切りにあった連中と風太郎が一緒くたになってしまう。

 「でもさ、地獄があるから天国があるんだよね
 貧乏人があるもんで、お金持ちがいるみたいにさ」

松山ケンイチがすごい。こんな好い役者だったのか。
ボロボロのジャケットを着た後姿。背中だけで、ほんとうの醜い男を彼は演じていた。