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everywhere I'll go

「チェ 28歳の革命」を観た

 革命は起きない
 ありきたりな日々を
 祈るように生きよう

金曜日に観る映画じゃなかったか。

1週間の疲れを倍増させてしまったようで、家に帰って、腹ペコだったけど、水も飲まずに寝てしまった。
思うに人間はある年齢を境に、物欲→愛欲→食欲→睡眠欲と、優先順位が移っていくのではないか。
そして最終的には永眠する。ということは死は欲の延長にあるのではないか。
やっぱり生きるとは少しずつ死んでゆくことなんだ。

とか言ったらチェはなんというだろう。
今すぐ視界から失せろと背を向けるだろう。

何が疲れたって、出てくる固有名詞がわかんない。
だれだれがどこどこでなになに軍と、とか、ジャックとかロサンゼルスってわけじゃないから、さっき出てきたっけその人?そこってどこ?と考えてる間に話はすすむ。
すすむ話も政治的な小難しい話。脳みそだけがどんどん消耗していく。
そもそも「革命」なんて教科書か歌の中だけでしか聞いたことがない。

そういうわけで、途中から視点を変えて観ることにした。
政治やら革命ではなくてチェ・ゲバラという男の言動だけに注目すればいい映画。
そうしたら、少し、眠気も飛んだ。

キューバよ、アメリカから独立せよ!祖国か、死か!」と突然外国人がやってきて扇動し革命を起こす。カンタンに言えばそういう話。で、それだけ聞けば、余計なお世話なヤツだなぁと思うし、しかもこのゲバラが母国では裕福でしかも医者だって聞いたら、金持ちの道楽でやってるのか、と、第三者からみればあまり愉快な革命ではない。
しかし、だったら何故その彼が、後世に語り継がれるまでに愛されたのか。
それを納得させられた映画だった。

スクリーンには「英雄」「カリスマ」という言葉からは程遠い、優しく冷静で生真面目なチェ・ゲバラがいた。
酷い喘息持ちで、山を越えるときもゴホゴホ、部下に指示を出すときもゴホゴホ。情けない。
戦いに必要なのは銃だけではないと若い兵士に読み書きを教える。
兵士たち同士のくだらない揉め事にも誠実に真摯に仲介に入る。
傷ついた兵士の手当てはもちろん、駐屯する村の人々の治療も請け負う。
怠慢、略奪を嫌い、裏切りには容赦しないが、弱い人間に暖かく、農民を尊敬している。
昇格どころか降格させられたり、全戦では戦うなとも命令されてしまう。
大事な人間だからとカストロは彼を生かそうとしていた。

そう彼は、この革命が「ただのおせっかい」で終わらせられないために、必要な人間だった。
それが後に、各国代表者からの質問に回答する国連壇上での彼の姿で証明される。
そこには戦場での彼とは一変、紛れもなく、カリスマがいた。
権力者の前でだけ、彼は彼の中に眠るそれを発揮させるようにも見え、そら、やたらかっこいい。近頃の女子たちがたまらないらしいギャップか。

その彼が時折見せる物憂げな表情、「必要不可欠な人間などひとりもいない」と断言する口調が、おそらく、「別れの手紙」へとつながっているのだろうなと思うと、やはり次回も見たいとなるから、坊主丸儲けである。

ともかく魅力的な男だ。少し知ったらもっと知りたいとなるから、人が集まってくる。
映画としてとりあげる人物にはもってこい。
ただ、娯楽映画にはなっていない。
これは、チェ・ゲバラという人間の記録映像。
もっというと、チェをよく知る人がとったホームビデオを見せられてるような感じだ。
「うちのチェはねぇ、実はねぇ、こんなんだったのよぉ奥さん」と。

そんな退屈になりかねないシロモノが観ていられるのも、やはり、ベニチオ・デル・トロだからというところに行き着く。
初めて彼を知った「ユージュアルサスペクツ」の怪演から衰えることなく、メジャーでありながらも、その異質な個性を失わない彼の存在感が、チェとダブる。

で、どうなんだよ、面白い映画なのかよと訊かれたら、きっぱり、面白くはない。
チェ・ゲバラを元々知っていて、興味のある人意外は、観ないほうがいいと思う。
観たら次回作も必ず観ずにはいられなくなるだろうから。